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自然言語でワークフローを作成!Sim AI入門

はじめに

近年、生成AIの普及とともに、Difyやn8nなどといった、プログラミング不要でワークフローを構築できるツールが増えています。しかし、「どこから手をつければ良いのか分からない」、「いくつものサービスをどのように連携すればいいのか迷ってしまう」といった悩みも多く聞かれます。

そこで本記事では、これらの課題を解決する可能性を持ったSim AIを取り上げます。Sim AIは自然言語で指示すれば、視覚的にワークフローを組み立てられるプラットフォームで、非エンジニアの方でも使い始めやすい設計になっています。

この記事を通じて、Sim AIの全体像を把握し、実際に使い始めるための方向性をつかんでいただければと思います。

1. Sim AIの概要

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Sim AIとは

Sim AIは、オープンソースで提供されるAIエージェント・ワークフロー構築プラットフォームです。ライセンスはApache-2.0で、セルフホスト版(Docker Compose等)とクラウド版の双方に対応しています。

Sim AIの特徴は、AIを中心に据えたワークフロー構築の自動化を目的としている点にあります。ユーザーはGUI上でトリガー(実行条件)やブロック(処理単位)を組み合わせ、自然言語の指示だけで複雑な業務フローを設計できます。これにより、エンジニアでなくても「AIエージェントが外部ツールを呼び出して処理を完了させる」といった動作を視覚的に構築することが可能になります。

主な機能

以下は 2025年10月時点(Sim AI v0.4.23)で公式ドキュメントおよび公開情報から確認できる主な機能です。

1. Triggers(トリガー)

ワークフローの開始条件を定義する要素です。主に以下の方法で処理を起動できます。

種類 説明
API Trigger 認証されたHTTPリクエストからワークフローを開始することができる。
Chat Trigger チャット欄での会話からワークフローを開始することができる。
Input Form Trigger エディタ上で定義した入力フィールド(テキスト、数値、ブール、JSONなど)をユーザーが手動で入力してワークフローを開始できる。
Manual Trigger フォーム入力などを伴わず、エディタ上から「Run」ボタンを押すだけでワークフローを起動できる。
Schedule あらかじめ設定した時間や間隔でワークフローを自動実行できる。
Webhooks 外部サービスからのHTTPリクエストを受けてワークフローを開始する。
2. Blocks(ブロック)

それぞれのブロックは入力データを受け取り、設定内容に基づいて処理を行い、次のブロックへ出力します。主なブロックは以下です。

種類 説明
Agent OpenAI、Anthropic、Google、OllamaなどのAIモデルに接続し、テキスト生成や会話応答を行う。System PromptとUser Promptを指定可能。
API 外部APIやWebサービスにHTTPリクエストを送信し、レスポンスデータを取得または送信する。Header・Body・Methodを細かく設定可能。
Condition 入力値や変数を評価し、真偽条件(True / False)に応じてワークフローの経路を分岐させる。
Evaluator AIモデルを使って生成結果をスコアリング・評価する。品質判定や再実行条件の制御に利用。
Function JavaScriptまたはTypeScriptコードを実行し、カスタムロジックやデータ整形など柔軟な処理を追加できる。
Guardrails AI出力に対して安全性チェックやポリシー検証を行い、不適切な応答をフィルタリングする。
Loop コレクション(配列・リスト)を反復処理し、要素ごとに同じブロックを実行。
Parallel 複数の処理を同時並行で実行。APIリクエストや複数エージェントの同時呼び出しなどに活用。
Response ワークフロー全体の最終出力を整形して返す。チャット応答やAPIレスポンスの形式を指定可能。
Router AIモデルを用いて入力内容を解析し、最適な経路や担当エージェントに自動振り分けする。質問や命令などの分類にも利用。
Workflow Block 他のワークフローを呼び出して再利用するブロック。複数フローを階層的に統合し、モジュール化できる。
3. Tools(ツール統合)

Sim AIでは、ワークフロー内で「外部サービスを呼び出す」ためのコンポーネントとしてToolsが用意されています。Sim AIがサポートする代表的なツールは以下です。

種類 ツール例
AI・言語処理 OpenAI、ElevenLabs、Translation services
検索・リサーチ Google Search、Tavily、Exa、Perplexity
ドキュメント操作 Google Docs、Google Sheets、Notion、Confluence
メディア処理 Vision(画像解析)、Image Generator(画像生成)
コミュニケーション Slack、WhatsApp、Twilio SMS、Gmail
データストレージ MySQL、PostgreSQL、Supabase、Airtable、Pinecone
開発・コード管理 GitHub
4. Connections(接続設定)

Connectionsは、ワークフロー内でブロック間のデータをつなぐ経路(パス)を定義する機能です。どのブロックがどの情報を受け取り、どの順序で実行されるかを制御します。正しく設定された接続によって、データフローが明確で安定したワークフローを実現できます。

  • Connection Types(3つの主要概念)
    種類 概要
    Connection Basics ワークフロー内で接続を作成・管理する基本概念。どのブロックの出力を次のブロックの入力へ渡すかを定義し、実行順序や依存関係を決定する。
    Connection Tags 各ブロックの出力データにタグを付け、他のブロックで明示的に参照できる仕組み。複数の出力や分岐を扱う際の識別に利用する。
    Data Structure 各ブロックが出力するデータの構造(文字列、配列、オブジェクトなど)を理解し、次のブロックで正しい形式として受け取るための仕様。
5. MCP(Model Context Protocol)

Model Context Protocol(MCP)は、Sim AIにおいて、外部サービス・データソースをワークフロー内のエージェントやツールから安全かつ標準的に利用できるように設計された仕組みです。

具体的には、MCPサーバを登録しておくことで、エージェント(LLM)またはツールがそのサーバに対して「特定の機能を実行」「データを取得」などの呼び出しを行えるようになります。Sim上で「MCP Tool」ブロックとしてワークフローに組み込むことが可能です。

6. Copilot(AI設計アシスタント)

Copilotは、Sim AIのエディタ内に統合されたワークフローの設計アシスタント機能です。ユーザーがワークフローを構築・編集する際に、次のような支援を行います。

  • 主な機能
    機能 内容
    Explain 現在のワークフローやブロックについての質問に回答。
    Guide ベストプラクティスや改善提案を提示。
    Edit 承認後にブロックや接続・設定を自動編集。
  • Context Menu(@メニュー)

    「@」を入力すると、以下の情報を参照しながらCopilotに文脈を与えられます。これにより、より正確で関連性の高い支援が可能になります。

    参照対象 説明
    Chats 過去の Copilot との会話履歴を参照。
    All workflows ワークスペース内の任意のワークフローを参照。
    Workflow Blocks 既存ワークフロー内の特定ブロックを参照。
    Blocks ブロックの種類やテンプレートを参照。
    Knowledge アップロード済みドキュメントやナレッジベースを参照。
    Docs Simの公式ドキュメントを参照。
    Templates ワークフローテンプレートを参照。
    Logs 実行ログや結果を参照。
  • モード(Modes)
    モード 概要
    Ask 質問・ガイド専用モード。構成を変更せず助言のみ行う。
    Agent 編集モード。ブロック追加・設定変更などの提案を自動反映(承認制)。
  • 推論レベル(Depth Levels)
    レベル 特徴
    Fast 最速・低コスト。小規模修正向け。
    Auto バランス型。推奨デフォルト。
    Advanced 複雑な設計や大規模ワークフロー向け。
    Behemoth 最大の推論力。構造変更や深いデバッグに最適。
7. Knowledgebase(ナレッジベース)

Knowledgebaseは、アップロードしたドキュメントをAIエージェントが検索・参照できるようにするRAGです。Simが自動的に文書を分割・埋め込みし、ワークフローから自然言語で検索できます。

機能 説明
ドキュメント処理 PDF、Word、Text、Markdown、Excel、PowerPoint、CSVなどを自動処理し、テキスト抽出・チャンク分割・ベクトル埋め込みを実行。
チャンク構成 文書を意味単位で分割し、検索精度を向上。編集や結合も可能。
検索機能(Semantic Search) pgvectorを用いた意味検索により、同じ言葉を使っていなくても内容的に近い文を関連付けて検索できる。
Knowledge Block連携 ワークフロー内でKnowledge Blockを使用すると、エージェントが文書内容を参照して応答を生成できる。
タグ・フィルタリング ドキュメントやチャンクにタグを付けて、検索対象を絞り込み可能。
セキュリティ管理 ワークスペース単位でのアクセス制御と安全なストレージ管理に対応。
8. Variables(変数)

Variablesは、Sim AI内で値を再利用・共有するための仕組みです。ワークフロー内で使うAPIキーやパラメータなどを安全に保存・呼び出すことができます。主にEnvironment Variables(環境変数)Workflow Variables(ワークフロー変数)の2種類があります。

種類 説明
Environment Variables(環境変数) ワークスペース全体で共通して利用できる変数。APIキー、ベースURL、認証トークンなどを定義しておくことで、すべてのワークフローから参照可能。セキュリティ保護された状態で保存され、編集は管理者権限が必要。
Workflow Variables(ワークフロー変数) 特定のワークフロー内でのみ有効な変数。ユーザー入力、ブロック出力、計算結果などを一時的に保持し、他のブロック間でデータを受け渡すために使用。変数のスコープ(有効範囲)を細かく制御できる。
  • 主な用途
    • 外部サービスのAPIキーやURLの管理
    • ワークフロー内でのデータ一時保存
    • テストまたは本番環境での設定切り替え
    • 同じ値を複数のブロックで再利用
9. Execution(実行・ログ・コスト)

Executionは、ワークフローが「どう動いたか」「どこで何が起きたか」「どれだけコストがかかったか」を可視化・制御するための機能です。

項目 説明
Basis(実行の基本) ブロックは依存関係に基づき実行され、依存がないものは自動で並列処理される。出力は接続先ブロックに流れ、失敗したブロックはその経路のみ停止します。
External API(外部API経由実行) SDK・REST API経由でワークフローを外部システムから起動・監視可能。プログラムによる実行や統合が容易です。
Logging(ログ) ワークフロー実行時の詳細なログを取得できます。リアルタイムコンソール、歴史ログページ、各ブロックの入力・出力・実行時間・エラーなどを確認可能です。
Cost Calculation(コスト計算) ワークフローの実行ごとに、基本実行料+モデル使用料(入力トークン×価格+出力トークン×価格)を自動算出。モデルごとの使用料・トークン数・合計コストをログ分析可能です。
10. Permissions(権限管理)

Permissionsは、ワークスペース内のユーザー操作を「閲覧」「編集」「管理」に分けて制御できる仕組みです。

レベル 説明
Read ワークフローを閲覧できる。実行ログの確認など可能。ワークフロー編集・変数設定・ユーザー招待は不可。
Write Readの権限に加え、ワークフローの作成・編集・実行、環境変数の設定も可能。ただしユーザー管理・ワークスペース設定の変更は不可。
Admin Writeのすべてに加えて、ユーザーの招待・削除、ワークスペース設定・外部ツール設定を管理できる。ワークスペースの削除はできない。
  • ワークスペース所有者(Owner)
    • ワークスペースの初期作成者がデフォルトで所有者となります。
    • OwnerはAdminの機能に加えて、ワークスペースの削除および所有権の移譲が可能です。
11. SDKs(開発者向け)

Sim APIにアクセスするためのSDKです。Python・TypeScript向けに提供されており、ワークフローの実行・管理・変数制御などをコードから操作可能です。

料金体系

Sim AIのクラウド版の料金体系は以下の通りです。

プラン 月額料金 主な制限・レート 主な機能
Free 無料 基本利用(制限あり)
使用上限:$10
クラウド版基本利用のみ。実行数・ストレージ制限あり。
Pro $20 25 runs/分(同期)
200 runs/分(非同期)
50 GBストレージ
無制限のワークスペース・招待・ログ保持。個人・小規模向け。
Team $40 75 runs/分(同期)
500 runs/分(非同期)
500 GB共有ストレージ
Pro機能+専用Slackサポート。チーム利用向け。
Enterprise カスタム カスタム実行レート、カスタムストレージ上限 専用ホスティング・サポート・エンタープライズ契約対応。

2. Difyとの比較

Sim AIとノーコードツールの代表であるDifyはともにワークフローを作成できるサービスですが、設計思想には大きな違いがあります。

設計思想の違い
プラットフォーム 重点 解説
Sim AI エージェント・ワークフロー設計に特化 「トリガー→モデル呼び出し→外部連携→出力」の流れを視覚化し、AIを中心としたワークフロー構築を前提としている。
Dify AIアプリを素早く作るための総合プラットフォーム ノーコード・ローコードでチャットボットやRAGアプリを迅速に立ち上げることに注力している。
どちらがおすすめか
  • Sim AIがおすすめな人
    • AIが自律的に判断・生成・操作するエージェント型のワークフローを構築したい
    • CopilotによるAI支援で、自然言語からワークフローを自動設計したい人。
  • Difyがおすすめな人
    • チャットボットやQ&Aアプリ、ナレッジを活用したアプリを手早く作りたい人。
    • 多種多様なツールを使いたい人。

3. Sim AIを使ってみる

ここでは、クラウド版Sim AIのCopilot機能を使って、「PDFファイルを要約する」ワークフローを作成していきます。このワークフローは、Difyでも作成していますので、詳細はこちらをご覧下さい。

ワークフローの作成
  1. こちらでアカウントを作成します。
  2. 「+」ボタンを押し、ワークフローを新規作成します。
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  3. 「Copilot」を開き、プロンプトを入力し、送信します。入力したプロンプトは以下です。
    PDFファイルをインプットして、内容をAIが日本語で要約し、結果を出力するワークフローを作成して。
    使用するのはAPIキーを必要としない標準ツールのみとします。
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  4. ワークフローが作成されたら、「accept」を選択します。
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    これでワークフローが完成しました。

出力確認

今回使用したPDFファイルはこちらです。

  1. PDFをアップロードし、実行ボタンを押します。
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  2. 「Console」にPDFの要約が出力されたことが確認できました。
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おわりに

この記事では、Sim AIの構成要素と特徴、そしてDifyとの違いを中心に整理しました。
Sim AIは、ブロックをつなぐ直感的な設計体験と、CopilotによるAI支援を組み合わせた、エージェント構築に特化したプラットフォームです。

発展途上のサービスであるため、Difyに比べるとドキュメントが少なく、エラーの原因が分かりにくかったり、連携できるツールが限られていたりする点は課題として残ります。
それでも、エラー内容をもとにCopilotがワークフローを自動で修正してくれる体験は、他のツールにはない新しいものかと思います。

また、現時点ではUIが英語表記のみで、日本語化は行われていません。そのため、日本語話者にとってはやや使いづらい部分もありますが、今後の多言語対応が期待されます。

Sim AIはまだ成長の途中にありますが、今後のアップデートで機能拡張や安定化が進み、より多くのユーザーにとって使いやすいプラットフォームへと進化していくことでしょう。

セルフホストでも安全に動かせる設計のため、研究・開発・業務自動化など幅広い場面で活用が可能です。
興味を持たれた方は、ぜひCopilotの支援を受けながらエージェントワークフローを作成してみてください。

参考文献